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Produced by MARI FUJITA
アシュラを再び語る前に、まずはモロッコの笑い話から。 あるところに怪物がおりました。この怪物は、人を食べてしまうことで恐れられていましたが、非常に好奇心の強い怪物でしたので、人々にこう言いました。「もし、わしが今までに聞いたこともないような話を聞かせてくれたら、許してやろう」まず、アメリカ人達が進み出て、口々に語り始めました。最新のロケットの話、最新の軍事設備の話・・・。しかし、怪物はちっとも驚かず、「ふん、そんなものは知っているわい」と言うと、アメリカ人を食べてしまいました。次に、日本人達が進み出ました。最新のコンピューターの話、最新のカメラや自動車の話・・・。しかし、これでも怪物は驚かず、「ふふん、そんなものもとっくに知っているわい」と、日本人も食べてしまいました!さて、次に、モロッコ人達が進み出ました。怪物「さて、お前たちは、何を聞かせてくれるのかな?」モロッコ人達は、何も言わずに、持っていたタムタムを演奏し出しました。怪物は拍子抜けしました。「何それ?ただの太鼓じゃないの?」モロッコ人はかぶりを振り、ただただタムタムを続けます。あまりのうるささに業を煮やした怪物は、つい、こう言ってしまいました「ええい、それは一体何なんだ?!」モロッコ人は、にやりと笑って言いました。「あんた、知らないのかね? これが、”アシュラの近所迷惑”だよ」こうして、モロッコ人達は、難を逃れたという話です。 *** 怪物も知らなかったアシュラの騒々しさだが、実際、この日のメディナの夜は眠れない。メディナを徘徊する子供達もすごいが、あちらこちらの大きな家やギャラリーでは、タムタム演奏家を招いて音楽会も無料で公開されていて、本物のモロッコ音楽に触れるチャンスでもある。毒を喰らわば皿まで、という訳で(毒?)、私もその一つに潜入してみることにした。ベン・ユーセフ神学校にほど近いギャラリー、「ダール・ベラルジュ」では、エッサウィラからのグループが到着していて、中庭でさすがの演奏が繰り広げられていた。(上写真:ダール・ベラルジュは、昔は野鳥保護センターだった建物。現在は現代美術のギャラリーになっている。) さて、そこに紹介されたのが、光るタムタムを持ったおじいさん。このマラケシュ在住のアブドゥッラーという御老人、実はタムタム演奏の大好きだった先々代の国王から銀のタムタムを授けられたという、モロッコタムタム界の人間国宝のような人だったのである。少なくとも60年代以前には既に第一線だったのだから、相当なお年には違いなく、歩くのもやっとである。満場の拍手に推されて、ほんの少しだけ、演奏を披露してくれる事になった。聞き逃すまい、と会場の全ての人が息をのんで見守る。しんとした空気が張りつめた。―軽やかなタムタムの音に、幾つもの時代を超えて語りかけるような歌声。会場いっぱいの敬意に満ちた拍手が沸き起こるその瞬間まで、マラケシュで、今、ここだけが静寂に包まれている、そんな気がした。text&photo 藤田麻里 拍手を浴びるアブドゥッラー氏。伝統の刺繍かばんを贈られ笑顔。
アシュラを再び語る前に、まずはモロッコの笑い話から。 あるところに怪物がおりました。この怪物は、人を食べてしまうことで恐れられていましたが、非常に好奇心の強い怪物でしたので、人々にこう言いました。「もし、わしが今までに聞いたこともないような話を聞かせてくれたら、許してやろう」まず、アメリカ人達が進み出て、口々に語り始めました。最新のロケットの話、最新の軍事設備の話・・・。しかし、怪物はちっとも驚かず、「ふん、そんなものは知っているわい」と言うと、アメリカ人を食べてしまいました。次に、日本人達が進み出ました。最新のコンピューターの話、最新のカメラや自動車の話・・・。しかし、これでも怪物は驚かず、「ふふん、そんなものもとっくに知っているわい」と、日本人も食べてしまいました!さて、次に、モロッコ人達が進み出ました。怪物「さて、お前たちは、何を聞かせてくれるのかな?」モロッコ人達は、何も言わずに、持っていたタムタムを演奏し出しました。怪物は拍子抜けしました。「何それ?ただの太鼓じゃないの?」モロッコ人はかぶりを振り、ただただタムタムを続けます。あまりのうるささに業を煮やした怪物は、つい、こう言ってしまいました「ええい、それは一体何なんだ?!」モロッコ人は、にやりと笑って言いました。「あんた、知らないのかね? これが、”アシュラの近所迷惑”だよ」こうして、モロッコ人達は、難を逃れたという話です。 *** 怪物も知らなかったアシュラの騒々しさだが、実際、この日のメディナの夜は眠れない。メディナを徘徊する子供達もすごいが、あちらこちらの大きな家やギャラリーでは、タムタム演奏家を招いて音楽会も無料で公開されていて、本物のモロッコ音楽に触れるチャンスでもある。毒を喰らわば皿まで、という訳で(毒?)、私もその一つに潜入してみることにした。ベン・ユーセフ神学校にほど近いギャラリー、「ダール・ベラルジュ」では、エッサウィラからのグループが到着していて、中庭でさすがの演奏が繰り広げられていた。(上写真:ダール・ベラルジュは、昔は野鳥保護センターだった建物。現在は現代美術のギャラリーになっている。) さて、そこに紹介されたのが、光るタムタムを持ったおじいさん。このマラケシュ在住のアブドゥッラーという御老人、実はタムタム演奏の大好きだった先々代の国王から銀のタムタムを授けられたという、モロッコタムタム界の人間国宝のような人だったのである。少なくとも60年代以前には既に第一線だったのだから、相当なお年には違いなく、歩くのもやっとである。満場の拍手に推されて、ほんの少しだけ、演奏を披露してくれる事になった。聞き逃すまい、と会場の全ての人が息をのんで見守る。しんとした空気が張りつめた。―軽やかなタムタムの音に、幾つもの時代を超えて語りかけるような歌声。会場いっぱいの敬意に満ちた拍手が沸き起こるその瞬間まで、マラケシュで、今、ここだけが静寂に包まれている、そんな気がした。text&photo 藤田麻里
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