フェズの庶民たち3気ままな「よろず屋」 −サムサ−ル・ハッサン−サムサ−ルとは俗語で「よろず屋」の意味で、注文があればどんなことでも段取るし、いかようなものでも捜しだしてくれる重宝な男だ。彼にはじめて会ったのは1981年、ひょんなことから旧市街と新市街の中間にある、ユダヤ人街(メッラー)に住みたいと思ったとき、間借りの世話をしてくれたのが最初。その後、自転車を欲しいといえばどこからか捜しだし、売買の仲介をしてくれた。出身はモロッコ南部、サハラ砂漠の前線の町、ザゴラだそうで、現地には父親が残してくれた土地があり、いい人が見つかれば売りたいと言う。数年前まで旧市街でちょくちょく顔を見かけたものだが、いまは風の便りで、より仕事の多いカサブランカに移り住んでいるという。仕事は結構あるそうで、現地の状況に疎い外国人相手に、借家の世話や車の売買の仲介等、羽振りがいいらしい。商談が成立すれば、双方からそれぞれ5パ−セントあまりのコミッションが入り、とくに家屋の売買の仲介はいい商売となる。堅実に仕事をすれば貯金も貯まるはずなのだが、ここモロッコでもそうは問屋がおろさないらしい。この男、ちょっと金が入るとフェズに残してきた家族のことも忘れて、禁止されているはずのアルコールを浴びるほど飲み、すべてを使ってしまうというのだ。フェズに戻るのはラマダンのときと犠牲祭のときぐらいで、家族もハッサンの稼ぎなど、ハナからあてにしている様子はない。そんな家族にとっては頼りない男を尻目に、奥さんが賄婦や、祭り事などの飯炊きの仕事をして、なんとかその日暮らしをしているという。かつては西方イスラーム世界にその名を轟かせ、栄耀栄華を誇った古都フェズの旧市街も、いまでは地方から職を求めてやってくる貧しい人々が住むスラム的ないろあいが強くなってしまった。だが、借家も食料も安く手に入り、家族が助け合えば何とか生きてはいける場所だ。この次、ハッサンがフェズに戻ってくるのは、いったいいつなのか?ちょっと気になる男ではある。 写真・文・村川敏弘 商売柄、ハッサンは雄弁だ(カサブランカ) 現在彼が住むカサブランカ市内(カサブランカ) 旧市街で人混みをかき分け荷物を運ぶサムサール(フェズ) 「モロッコの迷宮都市フェス」シリーズ「フェスの庶民たち」は、平凡社刊「モロッコの迷宮都市フェズ」に収録されており、弊社代表 村川がコラムとして、執筆と写真撮影を担当致しました。新しい都市生態学の構想として、神秘のヴェールに包まれたイスラムの古都を読み解いた一冊。異国情緒あふれる都市フェスの姿が、市民たちへのインタビューを通して、いきいきと描かれています。イスラームの宗教施設内部や巡礼風景などの貴重な写真を多数収録。発行/平凡社 著者/米山俊直 写真・コラム/村川敏弘 価格/2500円
フェズの庶民たち3
写真・文・村川敏弘
商売柄、ハッサンは雄弁だ(カサブランカ)
現在彼が住むカサブランカ市内(カサブランカ)
旧市街で人混みをかき分け荷物を運ぶサムサール(フェズ)
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