[モハメッドとの出会い]
8月16日午後、カサブランカを発った私と弟、そしてハッジ・ムスタファの3人はアトラス山系の町ミデルトを目指す。メクネスまでは比較的快適な高速道路を慎重に走り、メクネスからは一般山岳道に入り危険な幾多のカーブを抜け夜10時、ミデルトへ到着。宿へ雪崩れ込む。馴染みのオーナーの暖かい持て成しを受け美味しいモロッコ料理を頂く。部屋に戻るや否や皆、寝入ってしまった。翌朝6:30、食堂に行くと一人の屈強な男性が待っていました。宿のボスに呼ばれ貴方達を案内するようにと言われました。と丁寧な正統アラビア語で話し出す。朝食も早々にランクルに乗り込み、済んだ高原の空気を吸いながらリンゴ畑の谷間を走る。
[大渓谷への入り口の村へ]
正面に標高3737mのアヤシ山を見ながらやがて荒涼とした山岳道に突入する。気合を入れて走ることになるがそれはそれは美しい景観を見ながらの旅。空気の匂いまで清々しく見知との出会いに胸躍る。幾多の集落、住民の姿が後方に流れいく。ミデルトを出て3時間、道が無くなり土作りの貧相な集落が現れる。早速子供達がどこからとも無く現れ元気な声をかけてくる。初めて見る東洋人が珍しいのだろう・・。
[子供達の声が寒村に響く]
早々に村の村長が、お茶を飲んでけ〜と?誘ってくれるが丁重にお断りをして先を急ぐ。人懐っこい子供達に囲まれ私の弟は、予め用意していた鉛筆や、女の子には髪留めのわっかをあげている。山奥を旅する彼には地元の子供達が必要なものを知っているらしく人気者になっている。赤ん坊を抱いた子供や、縄跳び遊びをする洟垂れ小僧達・・、懐かしい我が昔を思い出す。
[道が悪くなるから気をつけろ!]
モハメッドの先導で川床を歩く。”正面に見える山の先が切れ込み大渓谷になっているんだ”。この辺りには冬場は雪が積もり環境が厳しいので住民は少ない、そのお陰か?大自然が今も残り豊富な湧き水が森林を形成している。澄んだ空気と柔らかな日差しが心地よい。8月というのに殆ど汗をかかない不思議・・。その代わりに身体が乾燥し鼻の穴や目の中がかさかさに乾く。
[風の道、自然が香る楽園]
村を出て30分、最後の民家を後にして徐々に渓谷に近づいてくると風の吹き荒ぶ音が大きくなる。大きな吸風口(渓谷の切れ目)に向かって風が唸り吸い込まれて行く。モロッコのアトラス山系やサハラ砂漠一帯では遠くで降った大雨が突如として川床や渓流の切れ込みに向かって流れ込み多くの住民が亡くなることはよく起こる。天候や雲の向きを確認しながらのトレックとなる。油断は禁物。道端に綺麗な花が咲いていた。匂いを放つシバの木でこの地方ではお茶に混ぜて飲むと健康に良い。
[凄いだろう・・こんな光景見たことあるか?]
村を出て1時間以上歩いたか?アトラスシーダー(杉)の群生地帯が現れる。モロッコで最も豪雪と水の多いこの地方一帯が有名な杉の生産地。フェズやマラケシュの旧市街に花咲いた木彫建築の芸術はまさにこの地域から産出するアトラスシーダーの賜物。僅な湧き水が川床を潤す。渓谷への案内を申し出た青年以外会う者はいない。ますます風の音が唸る・・。
[巨大な杉に度肝を抜かれる・・]
水の豊富な渓谷の傍だからこんな巨木が育ち生き長らえたのだろうか・・・。また険しい川床だから入域するものを拒み、切られずに残ったのか?数百年の歳月を夏は灼熱の熱風と、冬は雪と突風に晒され生きてきた証がその蛸の足のように大地に喰らい付く形相が物語る。砂漠の国、モロッコの自然の懐は深い。
[あの切れ込みを見てごらん]
巨木を抜け、際どい岩山を登りもう身体がクタクタになるほど歩いているとやがて前方に絶壁が見える。ロバ一頭も通れぬ岩場が地上を縫い続いている。夏場は水が少ないので歩けるという。慎重に降りていく。地面から上空に向かって渓谷の息吹が舞い上がる。ひんやりとした冷気が心地よい。