メディナの結婚式
モロッコ王国は、来たアフリカの西の果てに位置するイスラム教国だ。首都ラバトや、商都カサブランカを中心に約2,500万余りの人口を有し、豊富な天然資源や農業を核として発展する新興国である。古い歴史を持つフェズやマラケシなどの町は、周囲を高い城壁に囲まれた旧市街(メディナ)があり、数百年来変わらぬ、中世アラビア世界を彷彿させる光景が展開している。 昼なお暗いメディナは、他のイスラム諸国同様、男中心に動いていて、女性の姿を見かけることは少ない。しかし、たった一つの例外があるとすれば結婚式だ。 この日は、美しい民族衣装を着飾った女達が、会場を占領し踊り歌う。モロッコの結婚式ほど絢爛豪華なものは他に例を見ない。中でも古都フェズに伝わる結婚セレモニーは圧巻で、純金製の冠を頭に被った花嫁が古式にのっとり、顔見せを行い、会場を回る。クライマックスはミーダーと呼ばれる儀式で、日本の桶とそっくりの入れ物に花嫁を乗せ頭上高くかつぎ上げ、会場を練り歩くというもので、場内騒然となり、人々が口々に花嫁に向かって祝福の言葉をかける。アラーは二人の前途を暖かく見守ってくださる、早くかわいい子供を見せてください、などとはやしたて、私設の楽団が太鼓やタンバリンを激しく打ち鳴らし、式は終了する。モロッコでも比較的保守的な町では、女性は結婚すると外出の際、ベールで顔を隠すことが一般的なので、真にこの式の日が公衆を前に素顔をさらすことができる最後の日、花嫁にとっては最高に輝く日なのである。 夕方始まった結婚式は、気がついたら夜明けまで続いていた。一般的に男中心の閉鎖的なイスラム社会にあって、あれほど華やかで熱狂的な女性達の姿をまのあたりに見た時、案外家の中では女性上位の世界なのかなあ、と思ったりもする。 Text & Photo by 村川敏弘
「月刊アフリカ3月号」発行/社団法人アフリカ協会/1989年
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