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取材撮影コーディネート

カサブランカ空港内、出国ロビー左50M
日本人デザイナーが企画製作したオリジナル商品/高品質伝統品/アンチック/トアレグ銀細工/革バック/ベルベルキリム、絨毯各種/バッブーシュ/寄木細工/民族衣装他豊富
モスクへの誘い 「ムアッディンの叫び」

 モロッコ第二の古い歴史を誇る古都マラケシュ。町中至るところにナツメヤシの木が繁り、ピンク一色に統一された町並みはまるで砂漠の中のオアシスを思わせる。かつて南に広がるサハラ越えの隊商都市として栄えたマラケシュの町も、今ではアフリカ有数の観光地となり、異国情緒を求めて世界中から旅行者がやってくる。
 町のちょうど中心部に、ジャマーマ・アルファナー(「殺しの広場」の意)という名の広場があり、旅人や、モロッコ全土から集まってきた大道芸人たちで終日ごったがえしている。その広場のすぐ脇に気が遠くなるほど膨大な量の岩石を積み上げて造られた、巨大なイスラム寺院のミナレット(塔)が、天に向かってそそり立っている。
高さ67メートル、茶褐色に輝く寸胴形のミナレットは、クトゥビアの塔と呼ばれ、北アフリカの果て、辺境の地に咲いたムーア(モロッコ)風、イスラム建築の最高傑作として、全イスラム世界に、その名をとどろかせて来た。
 12世紀末、マラケシュに興ったアルモワヒッド王朝は、モロッコ全土を手中に収めるや、当時すでにイスラム勢力下にあったスペイン南部アンダルシア地方のセビリア、コルトバなどの諸都市を次々に征服し、王朝の強大な権力と宗教的な忠誠心を誇示するかのように、各地に寺院やミナレットを建設した。
 クトゥビアの塔は、現存するムーア建築様式の特徴を最も残す建築と言われ、中近東や西アジア地方のモスクに見られる先の鋭く尖った塔や、タマネギ形の丸い塔とは異なり、堂々とした長方形の独立したミナレットを持ち、美しいアラベスク模様で塔の壁面が飾られている。
 海抜0メートルに近い平坦地にあるマラケシュの町は、光を遮るものがほとんど見当たらず、強烈な太陽光が夜明けとともに容赦なく降りそそぐ。そんな厳しい環境の中にあって、塔が造り出す影の下には涼しさを求めて、多くの人が三々五々集まり、お茶を飲んだり、宗教談義に花を咲かせて一時をすごす。
 やがて日が少し西に傾くと、塔を囲むように、露天の本屋があちらこちらで店開きをし、コーランや絵入りの書物を並べていた。元来、クトゥビアとは、本屋とか図書館を意味するアラビア語で、かつてこの塔の周辺には数百に及ぶ書籍関係業者が軒を連ねていたと言われ、今もその名残が続いている。
 その日、私はいつものように塔の真下にやってきて、日陰の一角に腰を降ろし、一息ついていた。真冬だというのに大気はむせかえり、塔の最上部に備え付けられた拡声器から流れるコーランも、けだるそうに響いていた。
 と、突然、塔に隣接するモスクの扉が、ギイギイと音をたてて開き、中から白い正装の服を来た男が現れた。男は私に近づき、「あなたは、ここで一体、何をしているのか?」と不思議そうな顔をしてたずねてきた。「塔が好きで見上げているだけです。これほど雄大で堂々とした塔を他のいかなるイスラム諸国においても見たことがありません」と答えると、男は誇らしげに、「アラーは偉大なり」とつぶやき、にやりと微笑んだ。
 私は、「なんとか、このクトゥビアの塔のてっぺんに登ることができないものか」とたずねてみたが、「いかなる人間も塔に登ることは許されていません。ましてや、異教徒であるあなた方は一歩たりともモスクの中に足を踏み入れることはできません」と言って、取り合ってくれない。そこで私が、「信じられないでしょうが、私は、貴方と同じ宗教を持つ者でイスラム名をハムザと申します」と話すと、男は一瞬顔の表情を変え、しばらく考えたあと、「マァーシアッラー(驚いた時に発する宗教用語)。よろしい。遠い国からやって来た同胞に特別の計らいをしましょう」と言って、モスクの中に招き入れてくれたのだ。
 男はムアッディンと呼ばれる熱心な信者で、この塔の中に住み込みながら、イスラム教徒にとって欠かすことのできない一日五回の祈りの時刻を、塔の上から、人々に知らせることを債務としているという。
 塔内は、外界の暑さがまるでうそのように、ひやりとして静まりがえっていた。螺旋状に続く狭い通路が、暗闇の中を塔の頂上に向かって延びている。私は手探りで登っていった。やがて、天界から差し込む光が私の足元を照らし出す。壁の至るところに、汚れた染み跡らしいものが黒く光っていた。
 それが、塔建立以来800年もの歳月、一日たりとも休むことなく塔を駆け上がり、祈りの時刻を叫び続けた、数知れぬムアッディンの手垢だと聞いた時、言い知れぬ感動を覚えた。

Text & Photo by T.MURAKAWA
[朝日ジャーナル 1990/06/29号 掲載文抜粋]



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