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取材撮影コーディネート

 以前、世界遺産のTVドキュメンタリー番組の企画手配を手掛けた時、バラの栽培地として有名なカスバ街道の要の村ケラ・デ・ムグーナ近郊のバラ農家を取材対象にするよう提言し、かつて地の利のある高アトラス山中のカスバにお邪魔したことがあります。時期は5月初旬の頃、村の外れにあるピスト(道無き悪路)を四駆でひたすら走ります。目の前に聳えるムグーン山系の雪を頂いた雄大な山々(標高4000M級)に向かって約30分強走ると、急勾配の曲がりくねった峠道に差し掛かります。野の花が美しく咲いている丘陵地に目をやると驚いたことに蜂箱が至る所に置いてあり蜂蜜の採集が行なわれていました。そうそうモロッコは多種多様の蜂蜜が生産され国王もファームを所有されているとか…ちょっと高級なホテルに泊ると朝食に立派なガラスの小瓶に入った蜂蜜が付いていますよ。蓮華やタンポポだったっけ…可愛い野の花から採集した蜜は美味しいのです。

バラを摘む乙女

高アトラス山系を望む

ベルベルの女

渓谷のカスバ

 そうこうしているうちに道はどんどん険しくなり、空気も冷たく確実に標高が上がっているが肌で感じられます。と突然ブレーキがかかり車は停止。ドライバーが降りろと合図をします。そうです、峠を上り切ったのです。目の前に広がる180度の大パノラマを見ながら彼はタバコを吹かし、何処かのCMで見たような鋭い顔つきでただ沈黙、私は吸わないのでどこか手持ちぶたさで言葉もなく彼より更に苦み走った顔つきでじっと雪のムグーン山系の山々を睨みつけていました。さあ、お前の懐へこの四駆で突っ込んで行くから待っていな…とかなんとか考えていたのでしょうか。仕事柄、趣味も手伝ってか、20年来アトラス山系の主要なルートはほぼ踏破してきた経験の中でここから見る景色の壮大さ美しさはモロッコ随一、惚れ惚れするほどです。この絶景を見ながらレストランなんか作ったら客は喜んでくれるに違いないと日本的発想が浮かんできます。

バラの香りを摘む

雄大なるモロッコ原風景

バラを干す

 しばし休息していると不意に身の丈以上の草木を担いだ逞しいベルベルの女達が岩場から岩場と足早に走り去る姿が目に入る。夜明けと共に近くの村から彼女達は山へ登り薪や動物の餌になる草木を採集して山を移動してくるのです。あんな重い薪を背負ってよくもまあ足場の悪い岩場を歩けるものだと思います。峠道を慎重に下って行くとやがて川にぶち当たり女達が洗濯する光景が見られるようになったら里は近いのです。
 川べりを良く見ると緑の木々の中にピンクの花びらを持つ美しいバラが至る所に咲いています。近づいて嗅いでみるとまことに上品な匂いがし、自分が一体どこにいるのか、一瞬我を失うのではと思うほどに馨しい贅沢な香り。砂漠に程近い赤土の大地が続くこんな山の中にまるで人知れず1年に1度この時期にだけ一斉に咲き誇るバラ。土壁の薄暗いカスバの中で黒衣に身を包み生きるベルベルの女によって摘み取られたその花びらは光の余りとどかぬ部屋の片隅で乾燥され時を刻む。遠くフランス辺りの高級ブティックで売られたその香りはやがて世界中の女性達の身体にまとわり付き、都会の空気にブレンドされた馨しい香りは見知らぬ人に匂いの記憶として刻み込まれる。高貴な香りを放つモロッコのバラは荒々しい大地と逞しいベルベルの女に育てられた大地の恵みだと思うのです。

  PHOTO&TEXT T.MURAKAWA 03.3.15 

ベルベルのスカーフが風に乗る

ベルベルの踊り

薪を背負う女



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